日本で一番「ありがとう」があふれる学校

教員のとき、「教育で一番大事なことは何だろう?」「学校で最も大切にしていくことは何だろう?」と、改めてそんなことを考えるようになりました。そして、少しずつ、こういうことかなというものが、自分の中にまとまってきました。

 

「教育」とか「学校」について考え始めるようになってから、「そもそも、生きるということは、どういうことだろう?」という問いが浮かんできました。それで、さまざまな古典や多くの偉人の生き方を学ぶようになり、坂本龍馬の「生を世に得るは事を成すにあり」、松下幸之助さんの「人間は、世の中で生成発展に寄与すること」、『言志録』の「天、何の故にか我が身を生出だし、(中略)我れ既に天の物なれば必ず天の役あり」などの言葉から、「人は、世のため人のため、お役に立つために生まれてきた」と考えるようになりました。

 

それで、教育には、「一人一人が生まれもってきた能力や特質が役立つように引き出し、社会で発揮させてあげられるようにさせること」がとても重要だと考えています。知識も技術は必要なものに違いないが、それらはよりよく生きるための手段や方法であって、生きていく目的そのものにはなっていない。それよりも、その人らしい生き方ができるように、個性を磨き高めてあげていくことが、教育の大切な目的だといえるのではないか。そう考えています。

 だから、学校は、社会で生きていくための知識や人との関わり方を身に付けさせていく一方で、その人ならではのよさや強みを引き出していくことも必要だと考えています。

つまり、一人一人がよさを活かしながら、お互いに支え合い、豊かな社会をつくっていくために、教育があり、学校があるのではないかと考えているのです。

 

そして、多くの人との関わりながら、目には見えないことも含めて、いろいろな人やさまざまなものの「お陰」で、私たちは生きています。「生かされている」といったほうがいいかもしれません。ですから、人さまからの支えやお陰が当たり前ではなく、それらの「有り難さ」を忘れてはいけないことなのです。「自分一人で生きているのではない」ということも、学校で教えたいことの1つでした。

 

人様からの支えやたくさんのお陰様で生かされていることを忘れず、いつも「ありがとう」と言葉を掛け合うことで、幸せを感じられるようになっていきます。だから、まずは自分が人様のお役に立って「ありがとう」と言われる人間になっていきたいものです。学校は、子どもたちにそんな素地を養っていくことも大事なことだと考えていました。

それで、私が校長だったとき、「日本で一番『ありがとう』があふれる学校」というビジョンを提示し、先生方や子どもたちと取り組んできました。